白内障手術で使用する眼内レンズ

眼内レンズとは

白内障は、目の中の水晶体が濁る疾患です。昔の白内障手術は、濁った水晶体を取り除くだけで、手術後に度数の強い眼鏡をかける必要がありました。
しかし現代は、水晶体の代わりに眼内レンズを入れる方法が行われているため、快適な見え方が手に入るようになりました。
眼内レンズの種類は、どの距離にピントが合うのかによって分類されています。1つの距離にのみ合わせる単焦点レンズをはじめ、2焦点レンズや3焦点自然視覚レンズなどがあります。また、トーリックレンズと呼ばれる、乱視を矯正する機能を持った眼内レンズもあります。


単焦点レンズ

人間の目には水晶体と呼ばれる、カメラのレンズのような役割を担っている組織があります。水晶体は、厚さを変えることで近くや遠くのものにピントを合わせる組織です。
しかし、人工レンズではそういった調節ができないため、水晶体の全ての機能を代替することはできません。
単焦点レンズは、1つの距離にしかピントが合わないレンズで、遠方か近方のどちらかを選ぶ必要があります。どこに焦点を合わせるかにつきましては、趣味や仕事などの生活スタイルに応じて決めることをお勧めします。例として、ゴルフや登山、車の運転などで遠くを見ることが多い方は遠方に、家事やテレビ観賞など中距離を見ることが多い方は2mくらいに、読書やパソコン作業など近距離を見ることが多い方は近方に合わせると良いでしょう。

単焦点レンズのメリット

単焦点レンズのメリットは主に2つあります。

ピントの合う場所が鮮明に見える

レンズの焦点が合う距離は、他のレンズよりもクリアに見えます。特に、手元で細かい作業をする方など、近距離で物を見る作業が多い方は近距離がよく見えるレンズをお勧めします。車の運転をする方など、遠くの物を見ることが多い方には、遠方にピントが合うレンズが良いでしょう。

健康保険が適応される

白内障手術で単焦点レンズを使用する手術は、健康保険が適用されます。
自己負担割合が3割の方は、片目につき54,000円程度で、1割負担の方は片目18,000円程度で受けられます。

単焦点レンズのデメリット

単焦点レンズのデメリットは2つあります。

  • 1点しかピントが合わない
  • ピントが合わない距離を見る時は眼鏡が必要

単焦点レンズは、ピントの合う箇所が1点しかありません。そのためピントの合わない距離を見る際は、眼鏡が必要となります。近距離にピントが合うレンズを入れた場合は遠用の眼鏡が、遠方にピントが合うレンズを入れた場合は近用の眼鏡をかける必要があります。


三焦点レンズ

多焦点レンズは、近く・中間・遠くにピントが合うレンズです。このレンズを入れると、手元から遠方まで見える範囲が広がるため、生活が大変便利になります。そのため、手術後に眼鏡をかける機会が減らせます。しかしその一方で、デメリットもあるので、後悔しないように特徴を知っておく事も大切です。ライフスタイルやご希望を伺い、より患者様お一人おひとりに合った眼内レンズを選択していきたいと思います。

多焦点レンズのメリット

三焦点レンズのメリットは2つあります。

  • 近くも中間も遠くも見えやすい
  • 術後に眼鏡を掛ける必要がほとんどなくなるため、生活が楽になる

三焦点レンズは、遠中近に対応しているため、ピントの合う範囲も広いです。そのため手術後に、眼鏡をかける機会が減らせます。中には、眼鏡をほとんどかけなくても生活をされている患者様もいらっしゃいます。メガネやコンタクトレンズの依存度を下げたい方、白内障以外に病気のない方、手術後場合によってはメガネやコンタクトレンズの使用が必要になる事もある程度許容頂ける方に向いています。
多焦点レンズは、2焦点に合う製品や、3焦点レンズである「パンオプティクス(PanOptix)」もあります。このレンズは厚生労働省から認可されており、遠(5m以上)・中(60cm)・近距離(40cm)にピントを合わせることが可能です。それにより眼鏡をかけなくても、ドライブやテレビ鑑賞、パソコン・スマホの操作、読書などが楽に行えるようになりました。

多焦点レンズのデメリット

下記のデメリットもあります。

手術費が高い

多焦点レンズを入れる手術は、自由診療または厚生労働省から認可された医療機関での先進医療で行われます。そのため健康保険が使える単焦点レンズよりも、手術費が高くなります。およそですが、片目につき25〜35万円ほどかかります。
ただし、多焦点レンズを挿入する白内障手術は、2020年3月末をもって先進医療の対象から外されるようになりました。それに代わって2020年4月からは、保険診療と選定療養(混合診療)で受けられるようになりました。

症例によっては適応されないこともある

三焦点レンズは、白内障手術以外の眼の病気を併発している方や、瞳孔が特に小さい方では、三焦点眼内レンズを用いると、逆に見えにくくなる事が予想されるため、適応外となる事があります。また、見え方についてこだわりがある方にも、三焦点眼内レンズは不向きと言えます。
見え方も変わるため、慣れるまでに時間がかかる方もいます。

コントラストの低下・ハロー・グレアなどのトラブルが起こりやすい

三焦点眼内レンズは、各距離に光りエネルギーを配分している構造上、単焦点眼内レンズと比べると手術後約1〜2カ月はコントラストが劣る事があります。また、夜間に、車のライトや街灯などの光が眩しく見えたり(グレア)、光の周りに輪が出てにじんで見えたりする(ハロー)ことがあります。これをハロー・グレアと言います。特に、夜間のドライブや仕事上夜間に運転をされる方は、医師に相談してレンズを選ぶようにしましょう。

三焦点眼内レンズが向いていない方

手元や近方を集中して見る作業が多い方、遠近両用のコンタクトレンズが合わなかったご経験のある方、見え方に対して特別こだわりが強い方、75歳以上のご高齢の方、手術後の見え方に期待値が高い方は不向きと言えるでしょう。
そのため、手術前にはライフスタイルやご希望をお伺いし、患者様に合った眼内レンズを選択していきたいと思います。
多焦点レンズは、日中の明るい場所ではとても良く見えますが、暗い場所では少し見えにくさを感じたり光がにじんで見えたりすることもあります。その場合は、環境を改善したり偏光眼鏡をかけたりすると、対処できます。ただし、これらのトラブルは、手術後から半年ぐらい経つとあまり気にならなくなることもあります。


乱視矯正用のレンズ「トーリックレンズ」

トーリックレンズは、白内障手術で使うことで、乱視も同時に治せるレンズです。
乱視は、水晶体または角膜の歪みによって起こります。水晶体が原因で発症している場合は、白内障手術で改善できます。
一方、角膜の歪みによる乱視の場合はそのまま残ってしまうため、トーリックレンズで乱視を補正する必要があります。