糖尿病を放置すると合併症になることも
血液中にはブドウ糖があります。健康な身体の場合、血中のブドウ糖は効率的に身体の細胞へ取り込まれ、エネルギー源として活用されます。
しかし、 糖尿病の方は、ブドウ糖を細胞に取り込む流れがスムーズにできなくなるため、血中にブドウ糖が溜まってしまいます。
糖尿病を放置すると血管にダメージを与え、目だけでなく、様々な臓器に合併症が起こる可能性があります
糖尿病網膜症について
目の硝子体の奥には「網膜」という、神経の薄い膜が存在します。
糖尿病が悪化して高血糖状態が続くと、網膜に張り巡らされた細い血管が傷ついたり、詰まったり変形することがあります。
これにより視力低下や、眼底出血、網膜剥離や、緑内障になる可能性があります。最悪の場合、失明に至ることもあります。これが「糖尿病網膜症」です。
糖尿病網膜症は、進行してもご自身では気づかないことが多いため、治療が遅れるケースも多いです。実際に、大人が失明する原因としても大きく問題視されています。
糖尿病(またはその予備群)の方は、ご自身で健康状態を判断せず、定期的に眼科で検査を受けましょう
糖尿病網膜症の原因
糖尿病網膜症の原因で一番気を付けて頂きたい症状は「高血糖状態」です。糖尿病網膜症の症状を悪化予防・抑制するには、血糖値の管理も大切となってきます。内科での血糖値の管理だけでなく、定期的な眼科受診も行っていきましょう。
血糖値が安定している方でも、少なくとも半年に1回は検査を受けていただくことをお勧めします。
糖尿病が原因になる眼科疾患
糖尿病は、血流や腎機能など、全身に悪影響を及ぼす疾患です。それにより、全身にあらゆる合併症も起こす危険性もあります。糖尿病網膜症だけではなく、下記のような眼科疾患も発症しやすくなります。
糖尿病黄斑浮腫
黄斑部という部位が浮腫むことで、視力低下をきたす疾患です。
糖尿病白内障
加齢によって合併する白内障(仮性糖尿病白内障)とは別に、高血糖が長く続くことで発症する白内障(真性糖尿病白内障)もあります。
真性糖尿病白内障の場合は、若い方でも白内障になる可能性がありますので、注意が必要です。
血管新生緑内障
糖尿病によって血管が傷つくと、網膜の周りの毛細血管の代わりとして、新生血管が生成されます。血管新生緑内障とは、代わりにできた新生血管が目の水(房水)を排出する部分を塞ぐことで、眼圧が上がることで起こる疾患です。
眼圧が高くなると血流が悪くなり、さらに目の血行障害を引き起こします。通常の緑内障よりも治りにくく、治療の難易度も高いと言われています。
神経障害(眼瞼下垂・眼筋麻痺・角膜感覚低下)
神経障害と糖尿病を併発するケースは決して少なくありません。眼科で治療される神経障害は主に、瞼が下がってしまう眼瞼下垂や、目を動かせなくなる眼筋麻痺、角膜の感覚が鈍くなる角膜感覚低下などがあります。
糖尿病網膜症の進行と症状
単純糖尿病網膜症
糖尿病網膜症の初期段階です。網膜や毛細血管へのダメージは進行していても、症状を自覚しにくい場合が多くあります。
単純糖尿病網膜症は眼底検査を実施した場合、血管の瘤や軽度の出血、血液成分の漏出からくる沈着などが発見されることがあります。
前増殖糖尿病網膜症
網膜症が進行することで発症する疾患です。網膜の毛細血管が閉塞されるため、酸素や栄養が届かなくなくなる場所(無血管領域)が発生します。症状があったとしても「視界がかすむ」程度の自覚症状の場合が多くあります。
増殖糖尿病網膜症
発症すると「見え方が一気に悪くなった」「視界に黒い物が浮いて見える」といった症状が見られます。毛細血管が閉塞すると、足りなくなった酸素や栄養を少しでも届けるために、身体は網膜に新生血管を作ろうとします。しかし、この血管は脆く作られているため、破裂して硝子体まで血液が流れ出ることもあります。さらに増殖膜が作られると、網膜剥離(牽引性網膜剥離)を起こすケースもあり、急激な視力低下や、失明の危険性も高くなります。
糖尿病黄斑浮腫
黄斑浮腫とは、視力の中心部分である黄斑部に、血液中の成分が漏れ出て溜まってしまった結果、浮腫みができる疾患です。進行すると「物がぼやけて見える」「物が暗く見える」「物の形や線が歪んで見える」などの症状が見られます。この状態が続くと神経にも負担がかかるため、視力障害が起こりやすくなります。
また、網膜静脈閉塞症によって発症した眼底出血や、ぶどう膜炎と併発して黄斑浮腫を発症するケースもあります。
糖尿病網膜症の治療
レーザー治療
酸素が足りなくなった場所から新生血管が生えてくるのを防ぐために、レーザーでその場所を焼き固める方法です。疾患の進行や視力低下の進行を止めることに有効な治療方法です。
レーザー治療後、一時的に黄斑や網膜の浮腫が悪くなる可能性もあるので、治療を何回かに分けて行う必要があります。また治療後も、定期的な検査が必要となります。
硝子体注射
黄斑浮腫によって黄斑が障害されると、「急激な視力低下」「視界がぼやける」などの症状が起こります。
抗VEGF抗体の硝子体注射は、黄斑浮腫の改善に有効とされている治療法です。散瞳薬を点眼した後、点眼麻酔を使用し目の周りを消毒した後に硝子体内注射を行っていきます。
治療日の数日前から抗菌点眼薬を使用して頂く必要があるため、完全予約制として承っていますが、迅速な治療が必要な方には当日に対応する場合もあります。
ステロイドテノン嚢下注射
テノン嚢下にステロイド薬を注射する方法です。これで炎症を抑え、黄斑浮腫が軽減された状態を維持させていきます。
しかし、眼圧の上昇や緑内障を発症するリスクもある治療法ですので、慎重な経過観察と治療の選択が必要となります。
硝子体手術
目の中にあるゼリー状の組織である、硝子体を取り除く手術です。黄斑浮腫や黄斑前膜、牽引性網膜剥離、硝子体出血などが見られる場合に検討される治療方法です。
硝子体を取り除いた後は、それぞれの疾患・症状に合わせて治療を行います。当院では硝子体手術を行っておりますが、症状に応じて他の医療機関へご紹介させていただく場合もあります。